演劇について

身体表現②「ないものを身体で見せる」

舞台には、実際には存在しないものがたくさんあります。

本当は軽い箱を重い箱として見せる。
舞台上にはいない巨大な怪獣を、そこにいるように見せる。
見えないものが動いていることを観客に想像させる。

こうしたことも、役者の仕事です。

例えば、舞台上に一つの箱があるとします。

実際には片手で簡単に持ち上げられる、軽い箱です。

それでも、それを「重い箱」に見せることができます。

重いものを持ち上げるとき、自分の身体はどう動くでしょうか。

腰を落とす。
足で踏ん張る。
背中や腕に力が入る。
持ち上げる瞬間に身体全体へ負荷がかかる。

そういう身体の動きを、自分の中でトレースしてみる。

すると、実際には軽い箱でも、観客には重そうに見えてきます。

これは「重いふり」をしているだけではありません。

本当に重いものを扱うときの身体を使って、箱に重さを与えている。

ということです。

大きさも同じです。

舞台上に巨大な怪獣が現れたとします。

もちろん、実際には何もいません。

そこで役者が視線を高く上げる。

それだけでも、観客は「自分よりずっと大きなものがそこにいる」と想像できます。

さらに、その怪獣が舞台上を移動しているのであれば、役者がその動きを目で追っていく。

すると、舞台上には存在しない怪獣の移動まで、観客の中に立ち上がってきます。

つまり、役者は自分の身体を使って、

– 重さ
– 大きさ
– 距離
– 速度
– 方向
– 動き
– 存在感

まで表現することができます。

これは、舞台装置や小道具を使うこととは違います。

自分自身の身体によって、観客の想像力を動かしている。

だから役者は、自分の身体が何を表現できるのかをもっと知っておいたほうがいい。

「本当に重いものなら、自分の身体はどう動くのか?」

「本当に巨大なものを見たら、自分の視線や身体はどう反応するのか?」

「速いものが動いたら、自分の目はどう追うのか?」

そういうことを、自分の身体で考えてみる。

役者が持っている最大の道具は、自分自身の身体です。

だから、

自分自身が持っている身体という武器で、何を表現できるのかを突き詰めていく。

それも役者の仕事なのだと思います。

そして、この考え方は「動くより、止める」という話ともつながります。

巨大なものを見ている身体をきちんと止めるからこそ、視線の移動一つでその大きさや動きを表現できる。

身体をただ動かすのではなく、身体そのものを表現の道具として使う。

そこまで考えていくと、舞台上に「ないもの」まで、観客の中に存在させることができるのです。

文責:チャッピー