演技論・演技システム|04
ルコック・システム
身体、空間、動き、遊び、即興。ルコックの考え方を、俳優が自分の身体を使って発見していく訓練として見ていきます。
1 ルコックは何を考えたのか
ジャック・ルコックは、俳優の身体を「台詞を運ぶための器」だけとして扱わず、身体そのものを演劇をつくるための重要な材料として考えました。
そのため、まず頭の中で人物を決めてから身体を動かすのではなく、動いてみることで人物や場面を発見する訓練が多くあります。

2 身体は「感情の形」になる
同じ人物でも、重心が前にあるのか後ろにあるのか、身体が開いているのか閉じているのかによって、舞台上で受ける印象は変わります。
3 空間との関係をつくる
ルコックの身体表現では、身体だけを見ません。どこにいるのか、相手との距離はどれくらいか、どの方向へ進むのか、空間が狭いのか広いのかも演技の材料になります。
4 マイムから「物」をつくる
目の前に本物の道具がなくても、身体の使い方を具体的にすると、観客に物の存在を伝えることができます。
たとえば箱なら、大きさ、重さ、持ち手の位置、表面の硬さ、床との摩擦まで想像します。物を見せるのではなく、物との関係を身体で見せるのです。
5 中立な身体から始める
訓練では、最初から人物らしい癖をつけるのではなく、身体をできるだけニュートラルに戻して、そこから動きの違いを探ることがあります。
「老人を演じよう」と顔を作るのではなく、重心、歩幅、速度、呼吸、関節の使い方などを変えることで、身体全体から人物像を発見していきます。
6 マスクが俳優を変える
ルコックの教育では、マスクを使った訓練も重要な位置を占めます。顔の細かな表情を使いにくくすることで、俳優は身体全体や空間との関係に注意を向けるようになります。
マスクは単なる小道具ではなく、身体の使い方を発見するための条件として働きます。
7 即興は「自由に好きなことをする」ことではない
ルコックの即興では、何でも自由にやればよいというより、ある条件や制約を与え、その中で身体や関係の可能性を探します。
8 実践エチュード①「身体の質感を変える」
テーマ:身体
- 立って、まず何も演じないニュートラルな状態をつくる。
- 身体が「重い」と想像して、歩いてみる。
- 次に「軽い」「硬い」「柔らかい」「弾む」と条件を変える。
- 顔の表情で違いを説明せず、重心、歩幅、速度、呼吸、関節の使い方だけで変化をつくる。
- 最後に、どの身体の変化から人物の印象が生まれたかを振り返る。
人物を先に決めるのではなく、身体の変化から人物らしさが生まれる感覚を体験します。
9 実践エチュード②「空間の大きさを変える」
テーマ:空間
- 何もない場所を、まず広い空間だと想像して歩く。
- 次に、身体一つ分しか動けない狭い空間だと想像する。
- さらに、床・天井・壁の位置を自分で決めて、見えない空間の中を移動する。
- 二人で行う場合は、相手との距離を「遠い」「近い」「急に近づく」「離れ続ける」と変える。
- 空間が変わると、身体や相手との関係がどう変わったかを確認する。
実際のセットがなくても、身体と空間の関係を変えるだけで、舞台上の状況を変えられることを体験します。
10 実践エチュード③「条件が動きを変える」
テーマ:動き・即興
- 一人が「雨が降っている」という条件を出す。
- もう一人は、その条件を身体で受け取り、歩き始める。
- 途中で「風が強くなる」「地面が滑る」「急に晴れる」など、新しい条件を加える。
- 説明したり演技を決め込んだりせず、条件が身体に与える影響から動きを変える。
- 最後に、偶然生まれた面白い動きや関係を一つ選び、もう一度再現する。
即興は「何をやってもいい」ことではありません。条件を受け取り、その場で身体を変化させることで、予想していなかった表現を発見します。
11 5分エチュード「重い箱」
- 何もない場所に箱があると想像する。
- とても軽い箱として持ち上げる。
- 次に、10kg、30kg、50kgと重さを変える。
- 重さが変わるたびに、足、膝、背中、腕、呼吸、速度がどう変わるか観察する。
- 最後に、同じ箱を相手に渡す。相手は受け取った重さに身体で反応する。
大切なのは、重いふりをすることではなく、重さという条件が身体の使い方を本当に変えているかを探すことです。
12 同じ場面をルコックで考える
AはBに帰ってほしくない。
台詞だけで気持ちを説明するのではなく、二人の距離、身体の向き、近づく・離れる動き、速度、空間の広さを使って場面をつくります。
目的は同じでも、身体と空間を変えると、場面の意味は変わります。
ルコック編まとめ
身体 → 空間 → 動き → 即興 → 発見
ルコックの考え方では、演技を頭の中だけで完成させてから身体に移すのではなく、身体を動かし、空間と関わり、条件を試すことで、まだ知らない人物や場面を発見していきます。
スタニスラフスキー、マイズナー、メソッド演技とは違う入口から、俳優の表現を考えることができます。