HATAKITI 演劇の教科書|照明

第1章 光を考える5つの視点

照明を考えるときに、まず押さえておきたい「明るさ・方向・広がり・色・影」の5つの視点を学びます。

導入 照明って何をしている?

照明は、ただ暗い舞台を明るくするだけではありません。観客に何を見せるのかを、光によって作る仕事です。

舞台に立っている俳優を、客席から見る。当たり前のように見えるこの光も、偶然そこにあるわけではありません。

どこを明るくするのか。どこを暗くするのか。どの方向から光を当てるのか。どんな色にするのか。光をどこまで広げるのか。

照明は、それらを一つひとつ考えて作られています。

にゃかきち

照明って、暗い舞台を明るくするためのものじゃないの?

もちろん、それも大切な仕事です。でも、照明にはそれ以上の役割があります。

同じ舞台でも照明によって見え方が変わることを示す図
同じ舞台でも、照明を変えると「見え方」や観客の視線が変わります。

人物を見せる

俳優の顔や表情、身体の動きを観客に見せます。

場所を見せる

屋外、部屋、森、夜の街など、空間の印象を作ります。

時間を見せる

朝、昼、夕方、夜など、時間の変化を光で表現できます。

視線を誘導する

見てほしい場所に光を集め、観客の視線を導きます。

空間を分ける

一つの舞台の中に複数の場所やエリアを作ることができます。

見せない

暗くすることで、見せたくない場所を隠したり、観客に想像させたりできます。

にゃかきち

じゃあ、照明を考えるときって、何を考えればいいの?

まずは、光を5つの視点に分けて考えてみましょう。

第1章 光を考える5つの視点

最初から「この灯体を使おう」と考えるのではなく、まず「どんな光が必要なのか」を考えます。

照明を考える5つの視点を示す図
照明を考える基本は、明るさ・方向・広がり・色・影の5つです。

舞台照明では、特に次の5つの視点が基本になります。

1. 明るさ

どこを、どれくらい明るくするのか。

2. 方向

どこから光を当てるのか。

3. 広がり

どこまで光を広げるのか。

4. 色

どんな色の光にするのか。

5. 影

どんな影を作るのか、あるいは消すのか。

1-1 明るさ

まず考えるのは、どれくらい明るくするのかです。舞台全体を明るくする必要がある場面もあれば、人物だけを明るくしたい場面もあります。

にゃかきち

じゃあ、舞台全部を一番明るくすれば見やすいんじゃない?

明るければ明るいほど良い、というわけではありません。全部が同じ明るさだと、どこを見ればよいのか分かりにくくなることがあります。

舞台全体を同じ明るさにした場合と見せたい場所を明るくした場合の比較図
明るさは「見えるかどうか」だけでなく、「どこを見るか」にも関係します。

照明では、「どこを明るくするか」が重要です。

1-2 方向

同じ人物でも、正面、斜め前、横、後ろ、上、下など、どこから光を当てるかによって見え方が変わります。

にゃかきち

同じ明るさでも、向きが違うだけでそんなに変わるの?

変わります。光がどこから来ているように見えるかによって、顔の陰影、身体の立体感、空間の奥行きが変わります。

方向については第4章で詳しく扱います。ここでは、「光の向きも照明の設計要素」だと覚えておきましょう。

1-3 広がり

次に考えるのが、光をどこまで広げるかです。一人だけを照らす狭い光もあれば、舞台全体を覆うような広い光もあります。

にゃかきち

じゃあ、光って広げたり狭くしたりできるの?

できます。灯体の種類やレンズ、絞りなどを使って、光の広がり方を調整します。

広い光・中くらいの光・狭い光を比較する図
光の広がりを変えると、舞台上で同じ明かりとして扱う範囲も変わります。

なお、「狭い光=暗い光」ではありません。光の明るさと広がりは別の考え方です。

1-4 色

白い光だけでなく、青、赤、オレンジ、緑、紫など、さまざまな色の光を使うことができます。

ただし、「夜だから青」「夕方だから赤」というように、色だけで照明を決める必要はありません。

にゃかきち

赤い光を当てたら、全部『怖い場面』になるの?

そうとは限りません。同じ赤でも、明るさ、方向、周囲の色、影との組み合わせによって印象は変わります。

色は、照明を作るための一つの手段です。

1-5 影

最後が影です。照明を考えるとき、つい「どこを明るくするか」ばかり考えてしまいます。でも、実は影も重要です。

光があれば、どこかに影ができます。光の方向を変えれば影の方向も変わります。複数方向から光を当てれば、影が薄くなることもあります。

つまり、照明を考えることは、影をどう作るかを考えることでもあります。

光の方向によって人物の影の出方が変わることを示す図
光の方向が変わると、影の位置や濃さが変わり、人物の見え方も変わります。

第1章まとめ

照明を考えるときは、明るさ・方向・広がり・色・影の5つを意識します。

この5つを組み合わせることで、舞台の「見え方」を作っていきます。

にゃかきち

なるほど……。でも、実際にその光を出すには、どんな機械を使うの?

ここから、いよいよ灯体を見ていきます。