HATAKITI 演劇の教科書|演技をする

第1章 呼吸法

演技の土台になる呼吸を知り、息を止めずに身体と声を自由に使える状態をつくります。

1-1 呼吸は演技の土台

呼吸は生命活動であると同時に、舞台上の身体と声を支える土台です。

緊張すると息が浅くなったり、言葉を出そうとして息を止めたりします。逆に、呼吸が自由になると身体の動きや声にも変化が生まれます。

浅い呼吸と安定した呼吸、呼吸の基本を示す図説
浅い呼吸と安定した呼吸の違い、そして呼吸の基本的な流れ。

胸式呼吸

胸や肋骨の動きを中心に息をする呼吸です。肩や胸が動きやすく、緊張すると浅くなりやすい傾向があります。

腹式呼吸

横隔膜の動きによって、お腹まわりが動くことを感じやすい呼吸です。息を吸うとお腹まわりが広がり、吐くと自然に戻ります。

胸式呼吸と腹式呼吸、どちらが正解?

演技では、どちらか一方だけを使えばよいわけではありません。大切なのは、胸・肋骨・横隔膜・お腹など身体全体を使って、必要な量の息を自由に扱えることです。

にゃかきち

胸式と腹式、どっちを練習すればいいのかニャ?

どちらかを選ぶのではなく、身体のどこが動いているかを感じながら、呼吸を自由に使えるようになることが目標です。

1-2 まず「吐く」

呼吸を整えようとして、大きく吸おうとしすぎる必要はありません。

まず自然に息を吐きます。吐いたあとに身体が必要とする分だけ自然に吸う。これを繰り返して、呼吸を止めない感覚を覚えます。

1分呼吸観察

  1. 立って普段どおりに呼吸する。
  2. 息を吐くときだけ意識する。
  3. 肩、顎、胸、腹のどこが動いているか観察する。
  4. 息を吐いたあと、次の吸気を待つ。
  5. 呼吸を大きくしようとせず、自然に戻す。

1-3 身体を固めない

声を出すときに顎を固める、息を吸うときに肩を上げる、緊張すると腹部を固める。こうした癖があると、呼吸と声の自由を失いやすくなります。

力を抜くことは、身体をふにゃふにゃにすることではありません。必要な力だけを使い、余分な力を手放せることが重要です。

息を止める肩・顎・胸に力が入りやすい身体が固まりやすい
→
息を流す余分な力を手放しやすい動きが自由になる

1-4 動きながら呼吸する

歩く呼吸

  1. ゆっくり歩く。
  2. 歩く速さを変えても呼吸を止めない。
  3. 立ち止まる、方向を変える、しゃがむなど動きを加える。
  4. 動きが変わった瞬間に、呼吸がどう変化したか観察する。

演技では「動いてから呼吸する」のではなく、呼吸しながら動き、動きながら呼吸します。

1-5 声につなげる

息を吐く流れに短い声を乗せます。「あ」「う」「ん」など、無理のない音から始めます。

息から声へ

  1. 自然に息を吐く。
  2. 吐く息の途中に小さな「あ」を乗せる。
  3. 声を大きくするのではなく、息と声がつながっている感覚を探す。
  4. 最後に短い言葉を一つ発する。

実践エチュード① 寝たまま呼吸を観察する

まずは身体への負担が少ない姿勢で、自分の呼吸を感じます。

5分「呼吸の波」

  1. 床やベッドに仰向けになり、膝を軽く曲げる。
  2. 両手をお腹に置き、普段どおりに呼吸する。
  3. 吸うとき・吐くときに、お腹や胸がどう動くか観察する。
  4. 呼吸を深くしようとせず、息が身体を出入りする感覚を追う。
  5. 5分ほど続けたら、ゆっくり起き上がる。

ポイント:うまく呼吸しようとしなくて大丈夫です。まず自分の呼吸の癖を知ることから始めます。

実践エチュード② 吐く息で身体をゆるめる

息を吐くことと、身体の余分な力を手放す感覚を結びつけます。

3分「吐いてゆるめる」

  1. 立って、足を肩幅くらいに開く。
  2. 自然に息を吸い、ゆっくり吐く。
  3. 吐く息に合わせて、肩、手、顎の力を少しずつ抜く。
  4. 息を吐き終えたら、無理に吸わず、自然に次の息を迎える。
  5. 数回繰り返したあと、力が入りやすい場所が変わったか確認する。

ポイント:身体を無理に脱力させるのではなく、吐く息に合わせて余分な力を一つずつ手放します。

実践エチュード③ 呼吸しながら歩く

呼吸と動きを切り離さず、身体が動いている間も呼吸を続ける練習です。

5分「呼吸する歩行」

  1. 安全に歩ける場所を確保し、ゆっくり歩き始める。
  2. 歩きながら、足の裏と呼吸の両方に意識を向ける。
  3. 歩く速さを少し速くしたり遅くしたりする。その間も息を止めない。
  4. 途中で立ち止まり、自然に呼吸を続ける。
  5. もう一度歩き出し、動きが変わると呼吸がどう変わるか観察する。

ポイント:呼吸を歩数に無理やり合わせる必要はありません。呼吸を止めず、動きの変化を感じることを優先します。

第1章まとめ

呼吸をコントロールする前に、呼吸を観察する。

吐く、動く、声にする。呼吸が身体と声をつなぐ感覚を身につけることが、次の「発声」につながります。