HATAKITI 演劇の教科書|演技をする
第2章 発声
呼吸と身体を使い、喉だけに頼らず、相手に届く声をつくります。
2-1 発声のしくみ
声は、息・声帯・共鳴・口の動きがつながって生まれます。
声を出そうとすると、つい喉だけに意識が向きます。しかし、声のもとは肺から出る息です。その息が声帯を振動させ、そこで生まれた音が身体の空間で響き、最後に口や舌の動きによって言葉になります。
発声は喉だけの仕事ではありません。
呼吸で息を送り、身体を無理なく使い、響きをつくり、口と舌で音を明確にする。このつながりができると、大声を出さなくても相手に届きやすい声になります。
2-2 上半身をゆるめて声を響かせる
身体を固めて声を出すのではなく、ゆるんだ身体から声が生まれ、その声と一緒に身体が起きてくる感覚を探します。
実践エチュード「声で身体を起こす」
- 自然に立ち、膝を固めず、肩・首・胸・お腹の余分な力を抜く。
- 上半身の重さを前に預け、頭や腕もぶら下がるようにする。
- その姿勢で小さく「あー」と声を出し、身体のどこに響くか感じる。
- 声を途切れさせず、首、胸、上半身の順にゆっくり起き上がる。
- 立った姿勢で声を終え、喉で押さずに身体全体が響いている感覚を確認する。
ポイント:大きな声を出す練習ではありません。力を入れて声を作るのではなく、ゆるんだ身体から声が生まれる感覚を探します。

大きな声を出せば、よく届く声になるのかニャ?
大きさよりも、息・身体・響きを使って、無理なく相手へ届く声をつくることが大切です。
2-3 母音をはっきり発声する
まずは「あ・え・い・う・え・お・あ・お」を一音ずつ区切って発声します。
母音は、声の響きと口の形を確認する基本練習です。一気に流して読むのではなく、最初はあ|え|い|う|え|お|あ|おと一音ずつ区切ります。
口の形を変えることも発声練習です。
「あ」なら口を大きく開く、「え」なら横に開く、「い」なら口角を引く、「う」なら唇を丸める。このように音によって口や舌の形が変わります。形を丁寧に変えることで、母音の違いが明確になります。

母音を練習したら、50音はどう練習するのかニャ?
母音の練習と同じ型を各行に当てはめて練習してから、通常の50音へ進みます。
2-4 各行を同じ型で練習する
母音の「あ・え・い・う・え・お・あ・お」という型を、各行に当てはめます。
例えば「か行」なら、
か・け・き・く・け・こ・か・こ
「さ行」なら、
さ・せ・し・す・せ・そ・さ・そ
というように、一音ずつ区切って発声します。
練習の順番
- まず「あ・え・い・う・え・お・あ・お」を練習する。
- 次に、か行・さ行・た行……と各行を同じ型で練習する。
- 慣れてきたら、一音ずつの間隔を少し短くする。
- その後、通常の50音を一音ずつ発声する。
2-6 劇場という空間に響かせる
発声は、目の前の相手だけでなく、劇場という空間全体に声を届ける技術です。
演劇では、相手との距離だけを考えて声を出すわけではありません。舞台上の声は、客席まで届き、劇場という空間の中で響いてはじめて「伝わる声」になります。
声を遠くへ届けようとして喉で押し出すのではなく、息の流れ、身体の響き、声の方向を使って、空間全体へ声を広げます。
劇場では「大声」ではなく「響き」を使います。
小さな部屋で話すときと、広い劇場の舞台で話すときでは、必要な声の使い方が違います。客席の一番後ろまで届くことを意識しながらも、喉を押して音量だけを上げないことが大切です。
舞台の中央に立って、客席の奥まで声が届き、さらに劇場全体に響いていくような方向を意識してみましょう。
実践エチュード「劇場に声を響かせる」
- 自然に立ち、身体の力を抜いて呼吸する。
- まず近くの相手に話しかけるように声を出す。
- 次に、客席の中ほどへ声を届けるつもりで声の方向を変える。
- 最後に、客席の一番奥まで声が届くように意識する。
- 音量を無理に上げるのではなく、息と響きが空間へ広がっていく感覚を探す。
ポイント:声を遠くへ飛ばすことと、喉で押して大声を出すことは別です。身体を使って、劇場全体に響く声をつくります。
実践エチュード ひとりでできる発声練習
毎日少しずつ、無理のない声で繰り返します。
① 母音ロングトーン 5分
- 自然に息を吸う。
- 「あー」を小さめの声で一定に伸ばす。
- 同じように「え・い・お・う」へ進む。
- 喉に力を入れず、響きが安定しているか確認する。
② 各行の発声 5分
- あ行を「あ・え・い・う・え・お・あ・お」と発声する。
- か行、さ行、た行……と同じ型で進む。
- 慣れたら通常の50音を一音ずつ発声する。
③ 文章で発声 5分
- 好きな本や文章を選ぶ。
- 最初はゆっくり、母音と子音を明確に読む。
- 息を止めず、相手に話しかけるつもりで読む。
- 慣れてきたら少しずつ自然な速度へ戻す。
付録 北原白秋「五十音」――あめんぼの歌
五十音 北原白秋
水馬(あめんぼ)赤いな。ア、イ、ウ、エ、オ。
浮藻(うきも)に小蝦(こえび)もおよいでる。
柿の木、栗の木。カ、キ、ク、ケ、コ。
啄木鳥(きつつき)こつこつ、枯れけやき。
大角豆(ささげ)に醋(す)をかけ、サ、シ、ス、セ、ソ。
その魚(うを)浅瀬で刺しました。
立ちましょ、喇叭(らっぱ)で、タ、チ、ツ、テ、ト。
トテトテタッタと飛び立った。
蛞蝓(なめくじ)のろのろ、ナ、ニ、ヌ、ネ、ノ。
納戸(なんど)にぬめって、なにねばる。
鳩ぽっぽ、ほろほろ。ハ、ヒ、フ、ヘ、ホ。
日向(ひなた)のお部屋にゃ笛を吹く。
蝸牛(まゐまゐ)、螺旋巻(ねぢまき)、マ、ミ、ム、メ、モ。
梅の実落ちても見もしまい。
焼栗、ゆで栗。ヤ、イ、ユ、エ、ヨ。
山田に灯のつく宵の家。
雷鳥(らいてう)は寒かろ、ラ、リ、ル、レ、ロ。
蓮花(れんげ)が咲いたら、瑠璃(るり)の鳥。
わい、わい、わっしょい。ワ、ヰ、ウ、ヱ、ヲ。
植木屋(うゑきや)、井戸換(ゐどが)へ、お祭だ。
速く読むことが目的ではありません。
この練習では、口・舌・息・声を一緒に使いながら、どの速度でも音を崩さずに発声できることを目指します。速くするのは、ゆっくり読んでも明瞭に発声できるようになってからです。
ゆっくり読む
まずは一語ずつ、意味を確認するくらいの速度で読みます。
あめんぼ あかいな
あいうえお
- 口をしっかり動かす
- 一音ずつ明瞭にする
- 息を止めない
一定の速度で読む
文章全体を同じテンポで読みます。途中だけ急がないことがポイントです。
- 音の大きさをそろえる
- 言葉の終わりまで発声する
- 呼吸する場所を決める
少しずつ速度を上げる
明瞭さを保ったまま、少しだけテンポを上げます。
- 口が追いつく範囲で上げる
- 息が苦しくなったら戻す
- 音が崩れたら一段階遅くする
速さに挑戦する
最後に、自分が無理なく保てる速度まで上げます。
- 速さより明瞭さを優先
- 声を押し出さない
- 最後まで息と声をつなげる
練習の進め方
- STEP 1を数回繰り返し、音が崩れないことを確認する。
- STEP 2で一定のテンポを作る。
- STEP 3では少しずつ速度を上げる。
- 言い間違えたり音が崩れたりしたら、一つ前の速度に戻る。
- 最後にSTEP 4で、今の自分が保てる最高速度に挑戦する。
目標:「速く言えること」ではなく、速くなっても明瞭に、自然に、息を止めずに言えることです。
第2章まとめ
呼吸 → 身体 → 声 → 響き → 言葉 → 相手。
発声は大きな声を出すことではありません。呼吸を使い、身体をゆるめ、声を響かせ、音を明確にして、相手へ届ける技術です。