HATAKITI 演劇の教科書|演技をする|第二部 心

第15章 欲求

人物の内側にある「なぜ、それを求めるのか」を掘り下げます。

15-1 欲求とは何か

人物の心の奥にある「こうしたい」「こうなりたい」という強い求めを考えます。

欲求とは、人物が心の奥で「こうしたい」「こうなりたい」と強く求めているものです。目的が「何をしようとしているのか」だとすれば、欲求は「なぜ、それを求めているのか」に近いものです。

たとえば、同じ「ここにいてください」という台詞でも、「愛されたい」から言うのか、「相手を失いたくない」から言うのか、「自分が一人になるのが怖い」から言うのかによって、行動の意味は変わります。欲求は、目的や行動、言葉のエネルギーの源になります。

演技では、人物の欲求を決めて感情を作るのではなく、人物が何を求め、何を守ろうとしているのかを具体的に考えることから始めます。

欲求とは何かを示す図
にゃかきち

欲求があるから、人は動いたり話したりするんだニャ。セリフの奥にある欲求を考えると、演技がもっと面白くなりそうだニャ!

15-2 欲しいものを考える

人物が本当に欲しいものを具体的にすると、目的や行動が見えてきます。

「欲しいもの」と言っても、物だけを指すわけではありません。愛されたい、認められたい、自由になりたい、安心したい、誰かとつながっていたい、もっと知りたい――人によって求めるものは違います。

人物について考えるときは、「この人は何が欲しいのか?」をできるだけ具体的にしてみましょう。欲しいものが具体的になると、そのために何をするのか、誰に近づくのか、何を避けるのかが考えやすくなります。

第14章の「目的」は、人物が今しようとしていることでした。第15章では、その目的の奥にある「なぜ、それを求めるのか」を掘り下げます。

欲しいものを考える図
にゃかきち

欲しいものが分かると、その人物が何をするのか考えやすくなるんだニャ。

15-3 失いたくないもの

人は「得たいもの」だけでなく、「失いたくないもの」にも強く動かされます。

人物を考えるときには、「何が欲しいのか」だけでなく、「何を失いたくないのか」も重要です。大切な人、信頼、居場所、自由、役割、安心、自分自身の価値など、人によって守りたいものは違います。

失いたくないものが見えてくると、人物がなぜそこまで必死になるのか、その行動の理由が見えてきます。普段は穏やかな人物でも、大切なものを失いそうになった瞬間には、強い行動をとるかもしれません。

「この人物は、何を失ったら一番困るのか?」と考えてみましょう。それは、その人物の弱さや執着、相手との関係を知る手がかりになります。

失いたくないものを考える図
にゃかきち

「欲しいもの」だけじゃなくて、「失いたくないもの」も人物を動かすんだニャ。

15-4 恐れているもの

人物が何を恐れているのかを知ると、行動の理由が見えてきます。

欲求と反対側から人物を見る方法もあります。それが「恐れているもの」を考えることです。人物は、起こってほしくないことや、避けたいことからも強く動かされます。

たとえば、拒絶されること、失敗すること、大切な人を失うこと、孤独になること、傷つくこと、自分ではどうにもできない状況になること。何を恐れているかによって、同じ場面でも選ぶ行動は変わります。

恐れを考えるときも、「怖い」という感情だけで終わらせません。「何が起きるのが怖いのか」「それが起きると、この人物は何を失うのか」まで具体的にしてみましょう。すると、逃げる、隠す、攻撃する、守るといった行動につながっていきます。

恐れているものと行動の関係を示す図
にゃかきち

恐れているものが分かると、逃げたり隠したりする理由まで見えてくるんだニャ。

15-5 欲求と行動

欲求は、目的を生み、その目的を達成するための行動につながります。

欲求は、そのまま舞台上の動きになるわけではありません。まず「何を求めているのか」があり、それを叶えるために目的を持ち、具体的な行動を選びます。

たとえば「愛されたい」という欲求がある人物なら、相手に近づく、話しかける、助ける、喜ばせるなど、さまざまな行動が考えられます。一方、「傷つきたくない」という欲求なら、距離をとる、隠す、拒むといった行動になるかもしれません。

大切なのは、欲求を顔や声で直接表現しようとしないことです。欲求を持った人物として、相手に何をしようとしているのかを考え、行動してください。行動が具体的になると、欲求は結果として舞台に見えてきます。

欲求と行動の関係を示す図
にゃかきち

欲求を直接演じるんじゃなくて、欲求から生まれた行動を演じるんだニャ。

15-6 欲求がぶつかる

人物同士の欲求がぶつかると、対立や緊張が生まれ、物語が動きます。

一人の人物の中にも、複数の欲求があることがあります。「自由になりたい」と思いながら「誰かに認められたい」と思っている、といった具合です。

さらに、相手にも別の欲求があります。自分は「真実を知りたい」のに、相手は「知られたくない」と思っている。自分は「一緒にいたい」のに、相手は「一人になりたい」と思っている。こうした欲求のぶつかり合いが、対立や緊張を生みます。

演技では、自分の欲求だけでなく、相手が何を求め、何を守ろうとしているのかも考えましょう。欲求がぶつかった結果、二人の行動がどう変化するのかを追うことで、関係性や場面の動きが見えてきます。

欲求がぶつかることで対立が生まれる図
にゃかきち

お互いの欲求がぶつかるから、場面に緊張が生まれるんだニャ!

実践エチュード

欲求を目的と行動につなげて、一人の人物をつくってみます。

欲求から人物をつくる 10分

  1. 「愛されたい」「認められたい」「自由になりたい」など、人物の欲求を一つ決める。
  2. その人物が失いたくないものを一つ決める。
  3. その人物が恐れていることを一つ決める。
  4. 欲求を叶えるための目的を一つ決める。
  5. 目的のために、相手へ具体的な行動をする。
  6. 相手にも別の欲求を設定し、二人の欲求をぶつけてみる。
  7. 最後に、欲求が変化したか、行動がどう変わったかを振り返る。

ポイント:「欲求を表現しよう」としないこと。欲求を持った人物として、相手に何をしようとしているのかを演じてみましょう。

にゃかきち

欲しい、失いたくない、恐れている――そこから行動をつなげると、人物が見えてくるんだニャ。

第15章まとめ

欲求 → 目的 → 行動 → 言葉

人物が何を求め、何を失いたくなくて、何を恐れているのかを考えると、行動の理由が見えてきます。さらに相手の欲求とぶつけることで、関係性や場面の緊張が生まれます。