HATAKITI 演劇の教科書|照明
第8章 フォーカスと明かり合わせ
仕込んだ灯体を「どこへ向け、どこまで広げ、どこを切るか」。実際の舞台で光を狙うための基本を学びます。
導入 灯体を「置いた」だけでは照明にならない
照明図どおりに灯体を仕込んでも、それだけでは舞台に必要な光にはなりません。最後に必要なのが、灯体を狙った位置へ向けて調整する「フォーカス」と、実際の舞台を見ながら光を整える「明かり合わせ」です。
同じ灯体でも、少し向きを変えるだけで光が当たる場所が変わります。ビームを広げれば周囲まで明るくなり、絞れば狙った場所に光を集められます。
第3章で学んだ「絞り」や「カッター」、第4章で学んだ「前明かり・サイド・バック・トップ」と、第5章の照明図が、ここで実際の舞台上の光につながります。

仕込んだ場所が合っていても、向きが少し違ったら光もズレるんだね?
そうです。照明は「どこにあるか」だけでなく、「どこを照らしているか」まで合わせて初めて完成に近づきます。
8-1 フォーカスって何をする?
フォーカスは、灯体の向きや光の広がりを調整して、狙った場所に必要な光を作る作業です。
まず「この灯体で何を照らすのか」を決めます。人物なのか、舞台美術なのか、床の一部分なのか、背景なのか。目的によって狙う位置が変わります。
狙う
灯体の向きを変えて、光の中心を目的の場所へ持っていく。
広げる・絞る
光の広がりを調整し、必要な範囲だけを照らす。
切る
カッターなどを使って、不要な場所へ光が回り込まないようにする。
8-2 まず「中心」を合わせる
フォーカスでは、最初から細かい境界を完璧に作ろうとせず、まず光の中心を狙います。
人物を照らすなら、人物の立ち位置を基準にします。床を照らすなら、床面上の目標位置を決めます。舞台美術なら、見せたい面を基準にします。
このとき重要なのは、「灯体の向き」だけを見て判断しないことです。実際に舞台面へ届いた光を見て調整します。
初心者が覚える順番
- 何を照らすか決める
- 光の中心を目的位置へ向ける
- 必要な広さにする
- 不要な場所へ漏れていないか確認する
- 周囲の灯体との重なりを見る
8-3 絞りとカッターを使い分ける
「光を小さくする」と「光の形を切る」は同じことではありません。
絞りは、光の広がりを調整するためのものです。照らす範囲そのものを狭くしたり広くしたりします。
カッターは、光の一部を遮って境界を作ります。舞台袖や幕、客席など、照らしたくない場所への光漏れを抑えるためにも使います。
絞り
「どこまで広げる?」を調整する。
カッター
「どこから先を照らさない?」を調整する。
8-4 明かり合わせは一灯ずつ確認する
複数の灯体を一度に点けると、どの灯体が何をしているのか分かりにくくなります。
そのため、基本は一灯ずつ確認します。フェーダーやチャンネルを使って対象の灯体だけを点灯し、狙いを合わせます。
基本の確認手順
- 対象の灯体だけを点灯する。
- 舞台上のどこへ光が届いているかを見る。
- 向きを調整する。
- 必要なら絞りやカッターを調整する。
- 消して、次の灯体へ進む。
- 最後に複数灯を点灯して、重なりを確認する。
実際の現場では、照明担当者だけでなく、舞台監督や演出、他のスタッフとの確認も必要になります。作業中は周囲の安全確認を優先します。
8-5 前明かり・サイド・バックを合わせる
第4章で学んだ光の方向ごとに、見るポイントが少し変わります。
前明かり
人物の顔や表情が必要な位置に届いているか。左右の明るさや照射範囲も確認します。
サイドライト
身体の側面に光が届いているか。上下の位置や左右のバランスも見ます。
バックライト
人物の輪郭や奥行きを作れる位置に届いているか。客席側へ不要な光が漏れていないかも確認します。
トップライト
人物の上から必要な範囲を照らしているか。顔や床への影も確認します。
8-6 重ねたときに初めて見えてくること
一灯ずつ正しくても、全部を重ねると別の問題が見つかることがあります。
前明かりとサイドが重なれば、人物の顔や衣裳の見え方が変わります。バックライトが強すぎれば輪郭だけが強調されることもあります。床に光が重なりすぎれば、意図しない明るい場所ができることもあります。
だから明かり合わせは「一灯ずつ合わせて終わり」ではありません。最後に全体を点灯して、舞台全体として成立しているかを確認します。
全体を見る3つの質問
- 観客に見せたいものが、ちゃんと見えているか?
- 意図していない場所まで明るくなっていないか?
- 複数の光が重なったとき、色・影・明るさが狙いどおりか?
8-7 安全を最優先にする
フォーカスは高所作業や機材操作を伴うことがあります。技術より先に安全を確認します。
バトンを昇降させる場合は、舞台上や周囲に人・物がないことを確認し、劇場の手順に従います。高所での作業は、適切な設備・資格・補助者など、現場の安全ルールに従って行います。
灯体やケーブルを扱うときも、熱・落下・感電・転倒などの危険があります。初心者が単独で高所の灯体を動かすのではなく、必ず経験者の指示のもとで作業します。
8-8 実際に合わせてみる
ここまでの内容を使って、ひとつの灯体から明かり合わせを体験してみます。
5分照明エチュード「一灯を狙う」
- 舞台上に一人の立ち位置を決める。
- 前明かりを一灯だけ点灯する。
- 人物の顔や身体に光の中心が来るように調整する。
- 必要な範囲まで光を広げ、不要な場所への光漏れを確認する。
- 次にサイドライトを一灯だけ点灯し、同じ人物を狙う。
- 最後に二灯を同時に点灯し、重なったときの見え方を観察する。
実機を扱う場合は、必ず劇場・学校・団体などの安全ルールに従ってください。
第8章まとめ
フォーカスは、灯体を狙った場所へ向け、必要な範囲に光を整える作業です。
狙う → 広げる・絞る → 切る → 一灯ずつ確認する → 全体で確認するという順番で考えると整理しやすくなります。
そして、フォーカスは単なる機材操作ではありません。最終的には「観客に何を見せるための光なのか」という目的に戻って判断します。
次の章では、複数の光を組み合わせて、舞台全体の見え方を設計していきます。

一灯ずつ合わせて、最後に全部重ねて見るんだね!