HATAKITI 演劇の教科書|演技をする|第一部 体
第4章 身体
役者にとって身体は、演技をするための道具です。まず自分の身体を知り、感じ、意識して動かせるようにします。
4-1 自分の身体を知る
まず、自分の身体がどこにあり、どう動いているのかを知ります。
普段は、身体のすべてを意識して生活しているわけではありません。歩く、座る、手を伸ばすといった動作も、多くは無意識に行っています。
役者は、その無意識に行っている身体を、必要なときに意識して扱えることが大切です。
まずは頭、首、肩、腕、手、胸、背中、腹、骨盤、脚、足というように、自分の身体を部分として認識してみましょう。


普段って、身体のことを全部意識してないよね?
4-2 身体の感覚を感じる
見るだけでなく、自分の身体がどう感じているのかを知ります。
身体を動かす前に、立っているときの足裏、手のひら、肩、背中などにどんな感覚があるのかを感じてみます。
温かい、冷たい、重い、軽い、張っている、ゆるんでいる、触れている、離れている。身体にはさまざまな感覚があります。
演技では、こうした自分自身の身体感覚を知っていることが、身体を意識して扱うための土台になります。
身体スキャン
- 目を閉じても安全な場所で、自然に立つ。
- 足裏から頭まで、身体を順番に意識する。
- それぞれの場所にどんな感覚があるかを感じる。
- 左右で違うところがないか確かめる。
- 最後に全身の感覚をまとめて感じる。


身体って、見るだけじゃなくて感じるものなんだね。
4-3 身体の力を知る
どこに力が入っているのか、どこが抜けているのかを把握します。
身体は、動かしている部分だけに力が入るとは限りません。手を握っただけなのに肩が固くなっていたり、声を出すときに首に力が入っていたりすることがあります。
大切なのは、力が入っていること自体を悪いことにするのではなく、自分が今どこに力を使っているのかを知ることです。
力の場所を探す
- 手を強く握って、どこに力が入るか感じる。
- 肩を上げて、首や背中の変化を感じる。
- 顔を少し緊張させて、顎や首の変化を感じる。
- 一度力を抜き、変化を比べる。


手を握っただけなのに、肩まで固くなるの?
4-4 身体を部分として動かす
身体の各部分を意識して、自分で動きを選べるようにします。
身体を一つの塊として動かすのではなく、頭、肩、腕、手、胸、骨盤、脚など、それぞれの部分を意識して動かしてみます。
最初は大きく動かす必要はありません。小さな動きでも、「今どこを動かしているのか」が分かることが重要です。
部分を順番に動かす
- 右肩だけを動かす。
- 左肩だけを動かす。
- 右腕、左腕をそれぞれ動かす。
- 頭、胸、骨盤をそれぞれ動かす。
- 最後に、複数の部分を組み合わせて動かす。


身体って、一緒に動かすものじゃないの?
4-5 身体を連動させる
部分を知ったら、今度は身体全体がどうつながっているのかを感じます。
身体の各部分は、それぞれ独立しているわけではありません。腕を動かせば肩や背中も動き、脚を動かせば骨盤や上半身にも変化が起こります。
一つの部分を動かしたとき、身体のほかの部分に何が起きているのかを観察してみましょう。
連動を感じる
- 腕をゆっくり上げる。
- 肩、背中、胸がどう動くか感じる。
- 脚を一歩前へ出す。
- 骨盤、背中、腕がどう変化するか感じる。
- 動き全体を一つの身体として感じる。

4-6 身体の可動域を知る
自分の身体が、どこまで無理なく動けるのかを知ります。
腕はどこまで上がるのか。首はどの方向へどこまで動くのか。股関節はどの程度開くのか。
自分の身体の動く範囲を知っておくことは、演技をするときにも大切です。動かせる範囲を知れば、無理な動きを避けながら、必要な動きを選べます。
無理に広げることが目的ではありません。 痛みが出るところまで動かさず、自分の現在の範囲を知ることから始めます。


いっぱい動かせるほうが、いい身体なの?
4-7 身体を自分で調整する
自分の身体の状態を知り、必要に応じて整えられるようにします。
役者の身体は、毎日同じ状態ではありません。疲れている日もあれば、緊張している日もあります。
だからこそ、「今日は肩が固い」「右脚が動かしにくい」「呼吸が浅い」といった身体の変化に自分で気づき、必要なところを動かしたり、力を抜いたりできることが大切です。
今日の身体を確認する
- 身体全体を一度感じる。
- いつもと違う場所を探す。
- その場所を小さく動かしてみる。
- 必要なら休み、無理をしない。
- 最後にもう一度、全身の状態を確認する。


昨日できたことが、今日はやりにくいこともあるんだね。
実践エチュード
ここまでで感じてきた自分の身体を、もう一度最初から確かめてみます。
身体スキャンと分離運動 10分
- 自然に立ち、足裏から頭まで身体を感じる。
- 力が入っている場所、動かしにくい場所を探す。
- 肩、腕、手、胸、骨盤、脚などを一つずつ小さく動かす。
- 一つの部分を動かしたとき、ほかの部分がどう反応するか感じる。
- 最後に全身をゆっくり動かし、もう一度身体全体を感じる。
ポイント:大きく動くことや柔らかくなることが目的ではありません。自分の身体が今どうなっているのかを知り、意識して扱えるようになることが目的です。
第4章まとめ
身体を知る → 感じる → 力を知る → 部分を動かす → 全身の連動を感じる → 自分の可動域を知る → 身体を調整する。
役者にとって身体は、演技をするための道具です。まず自分の身体を正確に把握し、自分で感じ、自分で動かせるようになることが、姿勢、歩き方、重心、そしてその先の身体表現につながります。