HATAKITI 演劇の教科書|演技をする|第一部 体
第7章 重心
身体の重さがどこにあるのかを感じ、重心の移動と安定・不安定を演技に使います。
7-1 まず、自分の重心を感じる
重心を「正しい位置」として覚えるのではなく、まず自分の身体が今どこに重さを感じているのかを知ります。

立っているとき、身体の重さは足裏を通して床に伝わっています。けれども、普段はそのことをほとんど意識していません。
そこで、自然に立った状態で、足裏のどこに重さを感じるのかを観察してみます。前のほうに感じるのか、後ろのほうに感じるのか、左右で違うのか。人によって感覚は違います。
ここで大切なのは、最初から「ここが正しい重心だ」と決めることではありません。自分の身体の状態を感じ取れるようになることが、この章の出発点です。
足裏から重心を感じる
- 自然な幅で立つ。
- 足裏が床に触れている感覚を感じる。
- 足裏の前・後ろ・右・左のどこに重さを感じるか観察する。
- 一度身体を軽く揺らし、もう一度自然に立つ。
- 最初と比べて、重さの感じ方に違いがあるか確認する。

いつも立ってるのに、足裏のどこに重さがあるかなんて考えたことなかったな。
7-2 重心を前後に動かす
重心を少し前後へ移すと、身体が動き出す前の感覚が変わります。

自然に立った状態から、身体の重さを少しだけ前へ移してみます。すると、身体が前へ進みたくなるような感覚が生まれることがあります。
反対に、少し後ろへ移すと、後ろへ引かれるような感覚や、前へ進みにくくなる感覚が生まれます。
大きく身体を傾ける必要はありません。ここでは、重心をほんの少し変えたときに身体の感覚がどう変わるかを知ることが目的です。
前後の変化を感じる
- 自然に立つ。
- 身体の重さを少し前へ移す。
- 元の位置に戻る。
- 身体の重さを少し後ろへ移す。
- 元の位置に戻る。
- 前後で身体がどう動きたくなったかを比べる。

ほんの少し前に重さを移すだけで、身体が動き出しそうになるんだね。
7-3 重心を左右に動かす
左右へ重心を移すことで、自分の身体の支え方や左右差を知ります。

次は、身体の重さを右と左へ少しずつ移してみます。右へ移したときと左へ移したときで、同じように感じるとは限りません。
片側へ重さが寄ると、足裏の感覚や身体の傾きも変わります。無理に身体を倒すのではなく、どこまでなら自然に移せるのかを感じてみましょう。
左右差があることは、それだけで悪いことではありません。自分の身体にはどんな違いがあるのかを知ることが大切です。
左右の違いを感じる
- 自然に立つ。
- 少し右へ重心を移す。
- 中央へ戻る。
- 少し左へ重心を移す。
- 中央へ戻る。
- 右と左で、足裏や身体の感覚がどう違うか確認する。

右と左で、同じように動かしてるつもりでも感じ方が違うんだね。
7-4 重心を高く・低くする
重心の高さを変えると、身体の安定感や動きやすさも変わります。

重心は前後左右だけでなく、高さによっても身体の状態が変わります。身体を少し低くした状態と、身体を高く伸ばした状態を比べてみましょう。
低くしたから必ず重い、高くしたから必ず軽い、という意味ではありません。ここで見るのは、重心の高さが変わることで、自分の身体の安定感や動きやすさがどう変わるかです。
無理にしゃがみ込んだり、身体を伸ばし切ったりする必要はありません。自分が安全に動ける範囲で試します。
重心の高さを変えてみる
- 自然な高さで立つ。
- 少し身体を低くしてみる。
- 元の高さに戻る。
- 身体を少し高く伸ばしてみる。
- 元の高さに戻る。
- それぞれの状態で、安定感や動きやすさを比べる。

高さが変わるだけでも、身体の安定しやすさが変わるんだね。
7-5 安定と不安定を使う
安定している身体と、少し不安定な身体。その違いを演技の材料にします。

演技では、身体がいつも安定していればよいわけではありません。しっかり立っている状態も、今にも動き出しそうな状態も、どちらも表現に使うことができます。
両足で自然に立っている状態から、少し片側へ重さを寄せてみます。さらに、前後左右へほんの少しだけバランスを崩してみます。
大切なのは、倒れることではありません。安定した状態から、少しだけ不安定になる。その変化を自分で感じ取れることです。
安定と不安定を比べる
- 両足で自然に立ち、安定した状態を感じる。
- 少し右へ重さを寄せる。
- 少し前へ重さを寄せる。
- 中央へ戻り、もう一度安定を感じる。
- 「今にも動きそう」という程度まで不安定にしてみる。
- どの程度の変化なら、自分でコントロールできるか確認する。
7-6 重心から人物をつくる
重心の状態を人物の目的や状態につなげ、身体から人物を作ります。

ここまで、重心を前後左右へ動かしたり、高さを変えたり、安定と不安定を比べたりしてきました。
最後は、それらを人物につなげます。例えば、誰かに会いたくて前へ向かっている人物、何かから離れようとしている人物、落ち着いてその場にいる人物、周囲を警戒している人物。同じ場所に立っていても、重心の状態が変われば身体の見え方は変わります。
ただし、「この人物は前重心」「この人物は後ろ重心」と決めて覚える必要はありません。人物の目的や状態を考えた結果として、身体の重心がどう変わるかを試してみます。
重心から人物をつくる
- 普通に立つ。
- 重心を少し前へ移して、人物の状態を想像する。
- 重心を少し後ろへ移して、人物の状態を想像する。
- 重心を左右へ変えてみる。
- 重心の高さを変えてみる。
- 「誰かに会いに行く」「何かを待っている」など、目的を一つ設定する。
- 目的を持ったとき、自分の重心がどう変わるか感じる。
- 見る側は、どんな人物や状態に見えたか伝える。
- 演じた側は、自分の意図と見え方を比べる。

重心を変えるだけでも、その人がどんな状態なのか見え方が変わるんだね。
実践エチュード
重心の変化を組み合わせて、身体から人物をつくってみます。
重心を変えて人物をつくる 10分
- 普通に立つ。
- 重心を少し前へ移す。
- 重心を少し後ろへ移す。
- 右・左へ重心を移す。
- 重心を少し高く・低くする。
- 安定した状態と少し不安定な状態を比べる。
- 人物の目的を一つ設定する。
- 目的を持った状態で立つ、歩く、短い台詞を言う。
- 見る側は「どう見えたか」を伝える。
- 演じた側は「何を意図したか」を伝える。
ポイント:大きく身体を傾けることが目的ではありません。小さな重心の変化から、身体の状態や人物の目的がどう見えるのかを感じてみましょう。

ほんの少し重心を変えるだけでも、人物の感じ方が変わるんだ!
第7章まとめ
感じる → 前後左右へ動かす → 高さを変える → 安定と不安定を使う → 人物につなげる。
重心は、身体の中の「正しい場所」を覚えるためのものではありません。自分の身体の重さがどこにあるのかを感じ、その位置や高さを変えることで、身体の安定や動き、人物の状態を表現することができます。