HATAKITI 演劇の教科書|演技をする|第一部 体

第8章 感情の解放

身体に起きている感情の変化に気づき、それを止めずに行動へつなげます。

8-1 感情は身体にも現れる

感情が動くと、呼吸や姿勢、視線、声など、身体にも変化が現れます。

図説①

感情は頭の中だけで起きているものではありません。嬉しいとき、緊張したとき、怖いとき、怒ったとき、悲しいとき。身体の状態も少しずつ変化します。

例えば、呼吸が速くなる、肩に力が入る、視線が動く、身体が前へ出る、逆に後ろへ引くなど、人によってさまざまな変化があります。

ここでは、感情を大きく表現することを目指しません。まず、自分に感情が起きたとき、身体に何が起きるのかを知ることから始めます。

感情と身体の変化を観察する

  1. 自然に立つ。
  2. 最近あった「嬉しかったこと」を一つ思い出す。
  3. 呼吸、姿勢、視線などの変化を感じる。
  4. 次に「緊張したこと」を思い出す。
  5. 身体のどこが変わったか確認する。
  6. 最後に、何も考えず自然な状態へ戻る。
にゃかきち

感情って、顔だけじゃなくて身体全体に出てくるんだね。

8-2 感情を作るのではなく気づく

感情を「作る」のではなく、今の身体と呼吸に起きていることを観察します。

図説②

演技をするとき、「悲しい顔をしよう」「怒った声を出そう」と先に形を作ってしまうことがあります。

もちろん表情や声も演技の一部ですが、そこから始めるのではなく、まず自分の身体を感じてみます。

呼吸が浅くなった、胸が動いた、肩に力が入った、視線が止まった。そうした小さな変化に気づくことで、感情を無理に作らなくても身体の反応を扱えるようになります。

身体の変化に気づく

  1. 自然に呼吸する。
  2. 一つの出来事を思い出す。
  3. 表情を作ろうとせず、身体の変化を感じる。
  4. 呼吸、肩、胸、手、視線などを観察する。
  5. もう一度、何も考えず自然な状態に戻る。
にゃかきち

悲しい顔を作る前に、身体に何が起きてるか見てみるんだね。

8-3 身体のブレーキに気づく

感情が動いた瞬間に、自分で反応を止めている場所を見つけます。

図説③

人は、感情が動いたときに無意識に反応を止めることがあります。

笑いそうになって口を閉じる。泣きそうになって息を止める。怒りを感じて身体を固める。緊張して声を小さくする。

こうした反応は「悪いこと」ではありません。まず、自分がどこで反応を止めているのかに気づくことが大切です。

自分のブレーキを探す

  1. 少し感情が動く場面を思い出す。
  2. その瞬間に身体のどこが固くなるか感じる。
  3. 呼吸が止まっていないか確認する。
  4. 声や視線を抑えていないか確認する。
  5. 無理に反応を大きくせず、少しだけ力を抜いてみる。
にゃかきち

感情が出ないんじゃなくて、自分で止めてることもあるんだね。

8-4 感情を行動につなげる

感情を大きくするのではなく、相手に何を求め、何をしようとしているのかにつなげます。

図説④

感情を感じるだけでは、まだ演技にはなりません。舞台では、その感情を持った人物が何をしようとしているのかが重要になります。

例えば、怒っているから怒鳴るとは限りません。相手に謝ってほしいのか、離れてほしいのか、振り向いてほしいのか。悲しいから泣くとは限りません。そばにいてほしいのか、何も言わずにいてほしいのか。

感情を行動へつなげることで、身体の変化が人物の目的と結びついていきます。

感情から行動へつなげる

  1. 相手との場面を一つ設定する。
  2. 自分の人物が何を感じているのか考える。
  3. その人物が相手に何を求めているのか決める。
  4. 言葉を使わず、まず身体で相手に働きかける。
  5. 次に短い言葉を一つ加える。
  6. 感情と目的がどうつながったか確認する。
にゃかきち

怒っているだけじゃなくて、相手に何をしてほしいかまで考えるんだね。

8-5 感情の変化を受け止める

一つの感情を固定せず、相手や状況によって変化する身体を感じます。

図説⑤

実際の場面では、感情は一つのまま続くとは限りません。怒っていたところへ相手の言葉が返ってきて迷ったり、悲しかったところへ少し安心したりすることがあります。

演技でも、「最初から最後まで悲しい人」のように感情を固定する必要はありません。相手の言葉や行動を受けることで、自分の身体や呼吸が変化していくことを大切にします。

感情の変化を感じる

  1. 二人で向かい合う。
  2. 一人が短い言葉を伝える。
  3. もう一人は、その言葉を受けて身体の変化を感じる。
  4. 次に相手が少し違う言葉を伝える。
  5. 呼吸、視線、姿勢などがどう変わったか観察する。
  6. 感情を決め直すのではなく、その変化を受け止める。

8-6 感情から人物をつくる

感じたこと、身体の変化、行動をつなげて、一人の人物として演じます。

図説⑥

ここまで学んできたことを、人物につなげます。

「この人物は悲しい」「この人物は怒っている」と感情だけを決めるのではありません。

何が起きた → どう感じた → 身体がどう変わった → 相手に何をしようとしたという流れから人物を作ってみます。

感情は、人物を飾るためのものではありません。人物が何を求め、何をしようとしているのかを身体から生み出すための材料です。

感情から人物をつくる

  1. 人物が置かれている状況を一つ設定する。
  2. その人物に起きた出来事を一つ決める。
  3. 人物がどう感じたのか考える。
  4. 呼吸、姿勢、視線など身体の変化を感じる。
  5. 相手に何を求めているのか決める。
  6. その目的を持って短い場面を演じる。
  7. 見る側は、どんな状態や人物に見えたか伝える。
  8. 演じた側は、自分の意図と見え方を比べる。
にゃかきち

感情だけじゃなくて、身体と行動までつながると人物になっていくんだね。

実践エチュード

感情の変化を身体で感じながら、相手とのやり取りにつなげます。

言いたいのに言えない 10分

  1. 相手と向かい合う。
  2. 相手に伝えたいことを一つ決める。
  3. すぐには言わず、身体の変化を感じる。
  4. 呼吸、姿勢、視線、距離などを観察する。
  5. 少しだけ言葉にする。
  6. 相手の反応を受ける。
  7. 自分の感情や身体がどう変わったか感じる。
  8. 最後に、伝えたいことを言葉にする。
  9. 見る側は「どう見えたか」を伝える。
  10. 演じた側は「何を意図したか」を伝える。

ポイント:泣く、怒る、大声を出すなどの結果を作ることが目的ではありません。感情が動いたときに身体に何が起き、それが相手への行動にどうつながるのかを感じてみましょう。

にゃかきち

感情を大きくするんじゃなくて、ちゃんと感じて相手に向かうんだね。

第8章まとめ

感じる → 気づく → 止めているものに気づく → 行動につなげる → 変化を受け止める → 人物につなげる。

感情の解放は、感情を大きく見せることではありません。自分の身体に起きている変化を感じ、その反応を止めず、相手への行動や人物の目的へつなげていくことです。